賃貸物件における自殺とその損害賠償責任について

【相談】

私は賃貸マンションのオーナーです。ある部屋で単身の入居者の方が自殺をされました。これによって生じた損害に関し、入居者の連帯保証人あるいは親族などに対して、賠償を求めることは可能でしょうか。またその際の賠償額はどのようにして決まりますでしょうか。

ご回答:当該賃貸借契約に基づき発生する債務の一切についての連帯保証人がいる場合、もしくは、入居者の方の当該損害賠償債務を相続した親族等がいる場合、それらの者に対し、諸般の事情を考慮して算定された損害の賠償を求めることができます。

1 自殺を行った賃借人の善管注意義務違反について

マンションの部屋の賃借人は、借りている部屋について、その引き渡しを受けてからこれを返還するまでの間、当該物件の価値を下げないよう、善良な管理者の注意をもって部屋を使用すべき義務を負うものと考えられていますが(民法400条)、複数の裁判例においては、部屋の中で自殺をするという行為は、そうした善良な管理者としての注意をもって部屋を使用すべき義務に違反するものであると判断されています(東京地判平成19年8月10日、東京地判平成27年9月28日等)。

次にその部屋を借りようとする人が、部屋の中で自殺が発生したという事実を知った場合、心理的な嫌悪感が生じ、借りることを躊躇するのが通常である(人によっては全く気にしないという方もいらっしゃいますが)と考えられますので、一般的には、一定期間その部屋を貸すことが不可能な状態となったり、あるいは本来の適正賃料よりも減額しない限り貸し出せないといった状態になることが考えられます。つまり、その部屋の中で自殺をするという行為については、やはりその部屋の価値を下げる行為ということができますので、複数の裁判例において判示されている通り、そうした行為については、賃借人の義務の一つである善管注意義務に違反する行為と評価される可能性が高いこととなります(そのようにして、人の心理的な要因を背景として物件の価値が棄損されることを「心理的瑕疵」と呼んでいます。)。

2 損害賠償額はどのようにして決定されるか

自殺をして亡くなられた方の債務を相続する人物がいる場合や、当該賃貸借契約から生じる債務についての連帯保証人がいる場合には、それらの人物に対して損害賠償請求を行うことが考えられます。

その場合の損害賠償額については、事案により諸般の事情を考慮して判断されることとなりますが、前掲した2つの裁判例においては、いずれも、死の発生から1年間は賃貸できず、その後2年間は従前の賃料の半額でなければ賃貸できないものと判断されました。この場合、損害額としては、少なくとも、従前の賃料1年分と、その後2年間の従前の賃料の半額分の合計金額が、貸主に生じた損害ということになります(この点については、令和3年10月に国土交通省 不動産・建設経済局 不動産業課により策定された「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」6頁にて、自然死又は日常生活の中での不慮の死以外の死が発生した場合に、原則として、その発覚から概ね3年程度は宅地建物取引事業者による告知の義務があるとされていることとも整合しているように見えます。)。

しかしながら、あくまで、損害額の算定については事案によりさまざまな具体的事情を斟酌してなされるものですので、場合によっては、例えば当該物件につき、家族での居住が主として想定されているものかあるいは単身者の利用に向いたものであるかといった要素(すなわち、一般的には単身者よりも、家族での使用のほうがいわゆる「事故物件」を借りるハードルは高いと考えられる)や、物件自体の利便性(例えば、都市部の駅に近い物件などであれば、事故物件であったとしても借りられやすい可能性がある。)といった様々な事情を考慮したうえで、適切な損害額が決定されるということになります。

従いまして、場合によっては、賃貸不可能な期間や、半額でなければ賃貸できないといった期間については、いずれも、事案によっては上記の裁判例で示されたものよりも長くなる場合もあれば、逆に短くなる可能性もあるということになります。

従いまして、結局のところ、すべての事案に共通した画一的な処理というものは存在しませんので、賃貸物件のオーナーとしては、自殺者が発生した場合、十分な損害の賠償を求めるためには、当該物件や事案の特性を前提とした適切な主張や証拠の収集を行う必要があることとなります。この点については、法律専門家による個別具体的な事案の分析とアドバイスが重要となります。

大原滉矢

パートナー弁護士 大阪弁護士会所属

略歴
平成23年 私立近畿大学附属高等学校 卒業
平成27年 京都大学法学部 卒業
平成29年 京都大学大学院法学研究科法曹養成理論専攻 修了
平成31年 弁護士登録・弁護士法人飛翔法律事務所入所

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