【相談】

当社では、残業手当を支払っておりますが、特に固定残業手当として明示はせずに、基本給に含める形で支給しております。そのような場合は、固定残業手当として機能しないというような話もきいたのですが、実際はどうなのでしょうか。

【回答】

固定残業手当の支給、すなわち、労働基準法所定の割増賃金の支払いに代えて毎月固定の残業手当を支給するということ自体は、判例上も許容されており、制度として採用している企業もあります。ただし、ご相談にもありますように、固定残業手当の支給方法に不備があると、固定残業手当として機能しないこととなりますし、むしろ残業代が高額になってしまうというリスクもありますので、その取り扱いには十分な注意が必要です。

1 固定残業手当の明示

固定残業手当を支給する場合は、給与の総支給額のうち、いくらが固定残業手当であるのかを明示する必要があります。例えば、「基本給30万円(固定残業手当を含む)」という表記では、支給額のうちのいくらが固定残業手当に該当するのかがわからないため、固定残業手当の支給方法としては、不備があり、固定残業手当を支払っているとは認められないこととなります。そのほか、「10時間分の固定残業手当を含む」などと、固定残業手当に対応する残業時間の記載のみを行い、具体的金額を記載しないケースも見受けられますが、このような記載でも、結局、いくらが固定残業手当として支払われているかはわからないため、やはり固定残業手当の支給方法としては不備があるとされてしまいます。固定残業手当の明示は固定残業手当制度の根幹をなす最も重要な点になりますので、固定残業手当を支給する場合は、必ずその金額を明示するようにしてください。

2 手当の名称

そのほか、金額は具体的に明示しているものの、その名称を「業務手当」など一見して固定残業手当とわからないような名称で支給しているケースも見受けられます。固定残業手当として支給していると明示しておかないと、他の手当の支給に過ぎないと評価されてしまいますので、その名称についても、「固定残業手当」など固定残業手当の支給額であることがわかるような名称にしてください。

3 固定残業手当の合意

また、固定残業手当については、固定残業手当として支給することについて、労使間での合意が必要となりますので、採用時にその点が合意できていることが後々説明できるようにしておくことが重要です。そのため、就業規則や雇用契約書、労働条件通知書、給与明細等において、固定残業手当としていくら支給するのかを明記しておくようにしてください。

4 超過分の支払い

また、固定残業手当を支払っているとしても、実際の残業代が固定残業手当分を超過する場合は、その超過分については、企業側としては支払う必要があります。固定残業手当を支払っているからといって、超過分の支払義務がなくなるわけではないので、従業員の残業時間については正確に管理し、超過分が発生した場合は、支払いを行うようにしてください。超過分の未払いのリスクとしては、後に超過分相当額の未払い残業代を請求されるというだけではなく、超過分の支払いがなされない運用であることを理由に固定残業手当制度自体が無効と扱われ、せっかく支払っていた固定残業手当分についてすら残業代の支払いと認められなかったという裁判例もありますので、この点も十分注意が必要です。

5 固定残業手当として機能しなかった場合のリスク

以上述べたように、固定残業手当については適切に取り扱わなければ、企業側としては固定残業手当を支払っていたつもりでも、不備があるとして残業代の支払いとしては認められないというおそれがあります。この場合の未払い残業代の計算においては、固定残業手当とされているものについては基本給の一部として扱われ、企業側が基本給と考えていた金額より固定残業手当分だけ高い金額が基本給として未払い残業代の基礎として扱われ、結果的に企業側の想定より高額の残業代となってしまうリスクもあります。 このように、固定残業手当については、取り扱いについて様々なリスクがあるうえ、不適切な導入により残業代を増加させてしまうリスクもあり、裁判でも争われるケースが多いものです。そのため、取り扱いに迷ったときは、専門家に相談していただくことをおすすめいたします。