M&A

事業譲渡の留意点②

前回は、事業譲渡のメリットについて触れさせていただきましたが、事業譲渡のデメリット、注意点について端的にご説明させていただきます。

1,事業譲渡のデメリット

①取引先ごとの承継手続が必要であること

 事業譲渡の場合、譲渡する財産を当事者が選択できる反面、合併などの権利義務の包括的な承継手続とは異なり、譲渡する財産に応じた個別的な移転手続が必要となり、手続として煩雑になりがちです。この点、取引先との契約関係を買い手へ移転させるには、原則として取引先の同意を要することになります。当該同意の取得のために、取引先全てに対して通知を行い、同意書を取り付けるということも実務ではよく行われます。取引先が多ければ多いほど、コストが増しますし、必ずしも同意が得られるものでもありません。

②許認可等の引継ぎが出来ないこと

 売り手が事業のために取得していた許認可については、基本的に、買い手に引き継ぐことは出来ません。よって、買い手の方で再取得する必要がありますが、当該許認可を取得することが出来るのかどうかについては、事前に十分に確認しておく必要があります。

③譲渡益課税がなされること

 売り手は、事業譲渡により譲渡益が生じた場合には、当該譲渡益に法人税が課税されることになります。

④売り手が債務超過の場合は適正譲渡対価の算定の必要性があること

 対象事業について不当に低い価格で譲渡を行った場合には、売り手の債権者から詐害行為であるとの主張がなされたり、後に売り手に破産開始決定がなされた場合には、破産管財人から否認するとの主張がなされたりするリスクがあり、M&Aの目的を達成できない事態にもなりかねません。

そのため、対象事業については適正価格にて譲渡することが必須となります。その際、価格について評価を行う場合には、客観性・公平性を確保する上でも、顧問税理士ではなく、第三者である専門家を関与させるべきです。また、売り手において、事業譲渡の適正対価については、全額を運転資金に宛てたり、一部の債権者に対し優先的に弁済したりなどせず、債権者に対して平等に弁済を行うべき場合があるといえます。

 上記が全てというわけではありませんが、事業譲渡の主だったデメリットについて解説させていただきました。しかしながら、上記のようなデメリットがあるとしても事業譲渡が用いやすい手法であることに変わりはありません。M&Aにおいて重要なことは、各手法のメリット、デメリットを踏まえた上で、適切な手続を選択することです。早い段階から専門家に相談しながら、M&Aの手法についても検討・調整していく必要があります。

中島和也

アソシエイト弁護士 大阪弁護士会所属

略歴
大阪府出身
平成20年 石川県立金沢錦丘高校 卒業
平成24年 私立関西大学法学部法学政治学科 卒業
平成26年 大阪大学大学院高等司法研究科 修了
平成28年 弁護士登録・弁護士法人飛翔法律事務所入所
令和2年 上場IT企業法務部において企業内弁護士として勤務
令和3年 弁護士法人飛翔法律事務所復帰

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