不動産

高齢者との賃貸借契約の締結および死亡時の対応について

【相談】

高齢者との賃貸借契約を締結するにあたり、賃借人死亡後の解除および残置物の処理に法的な問題や必要な手続があると聞きました。死亡後の対応はどのようになりますか。また、その後の対応を円滑にするための事前対応策はありますか。

【回答】

賃借人が死亡した場合において相続人が存在するときは、賃借権が相続財産として相続人に承継されます。また、賃貸物件内部の残置物についても、相続人に所有権が承継されることになります。そのため、賃貸人は、勝手に残置物の処分等を行うことはできません。

そこで、賃貸人としては、相続人が存在することが分かっている場合には、当該相続人との間において、賃貸借契約の合意解約の手続や残置物の引取りを含む退去の手続を行っていく必要があります。とはいえ、相続人の一部が合意解約に同意しない場合など、円滑に解除の手続を進めることができない場合もあります。

また、相続人が存在するかどうか不明な場合には、家庭裁判所に対して、相続財産の管理人(通常は弁護士が選任される場合が多いです。)の選任を請求し、当該相続財産管理人との間で退去に関する交渉を行う必要があります。しかしながら、相続財産管理人の選任申立てにあたっては、多額の予納金の納付が求められることもあり、申立ての負担は大きいものとなります。その上、相続財産管理人が必ずしも賃貸人の意向に沿うような対応をしてくれるとも限りません。

このような事態を防ぐための事前策としては、高齢者との間における賃貸借契約の締結と同時に、賃借人となる高齢者と一定の第三者との間で、賃借人死亡後の賃貸借契約の解除や残置物の処理等に関する委任契約(死後事務委任契約)を締結してもらうことが考えられます。

死後事務委任契約においては、受任者は、賃借人死亡後、賃貸借契約の解除についての代理権や、残置物の処理に関する権限を取得することになりますので、上記のように全ての相続人と交渉しなければならなかったり、相続関係を調査した上で相続財産管理人の選任を申し立てたりしなければならない事態を防ぐことができるようになります。

ただし、賃貸人が受任者となる場合など、賃借人と利害が対立する者との間で死後事務委任契約を締結する場合には、民法や消費者契約法に違反して無効となる可能性があります。また、受任者が賃貸人とならなければ安全というわけでもありませんので、実際の運用に際しては、賃借人を不当に害する内容になっていないか注意を要する点があることも事実です。

そのため、賃借人に死後事務委任契約を締結してもらうにあたっては、念のため専門家にチェックしてもらうのが安全でしょう。

大原滉矢

アソシエイト弁護士 大阪弁護士会所属

略歴
平成23年 私立近畿大学附属高等学校 卒業
平成27年 京都大学法学部 卒業
平成29年 京都大学大学院法学研究科法曹養成理論専攻 修了
平成31年 弁護士登録・弁護士法人飛翔法律事務所入所

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