不動産

明渡断行の仮処分について

【相談】

当社は、ある土地の上にマンションを建設しようとしており、1か月後には工事が始まるのですが、不法に占有している人物がいます。訴訟を提起して判決まで待っていると、工事に着手できず、莫大な損害が生じてしまいますので、何か適切な手段はないでしょうか。

【回答】

不法に占有している者がいる場合、通常であれば、訴訟を提起して判決を取得し、明渡しの強制執行により不法占有者を退去させることになりますが、訴訟は時間がかかるため、訴訟の提起から判決までに1年以上の期間を要することも少なくありません。
そのため、緊急性の高い事案については、判決を待っていては解決できないこともあります。

このような事態に備えて、迅速かつ暫定的に仮の救済を図る民事保全手続という権利保全手続が存在します。
ご相談のようなケースでは、判決を取得する前に土地を暫定的に明け渡してもらう方法として、土地の明渡断行の仮処分を申し立てることが考えられます。

そして、明渡断行の仮処分といった保全命令が認められるためには、保全すべき権利と保全の必要性が認められる必要があります(民事保全法13条1項)。

保全すべき権利と保全の必要性に関しては、通常の訴訟で要求される「立証」(合理的な疑いを差し挟まない程度に真実らしいと裁判官に確信を抱かせること)ではなく、「疎明」(一応確からしいとの推測を裁判官が得た状態)で足りるとされていますので(同条2項)、一般的には、「立証」よりも低い程度で足りるとされています。

しかしながら、不動産の明渡断行の仮処分は、暫定的に権利が実現された状態(明渡しが実現できた状態)を作ることになりますので、保全の必要性に関しては、実際には訴訟における証明とほとんど差のない程度の相当高度な疎明が要求されると解されており、相手方から提出されることが予想される反論を排斥する疎明も必要であるとされています。

そのため、不動産に関する明渡断行の仮処分が現実に認容される例はほとんどないものとされていますが、緊急性が高く、判決を待っていては被害が著しく大きくなる場合などについては、認められることもあります(私が申し立てた事案でも実際に認められたケースがあります。)。

明渡断行の仮処分については、通常の民事保全手続以上に認められることが少ないものとなりますので、経験のある専門家にご相談されることをおすすめします。

大原滉矢

アソシエイト弁護士 大阪弁護士会所属

略歴
平成23年 私立近畿大学附属高等学校 卒業
平成27年 京都大学法学部 卒業
平成29年 京都大学大学院法学研究科法曹養成理論専攻 修了
平成31年 弁護士登録・弁護士法人飛翔法律事務所入所

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