不動産

隣地使用権について

【相談】
当社は、新たな事務所として既存のビルとその土地を購入したのですが、ビルが老朽化しているため、修繕工事を行うことを予定しています。隣地との隙間があまりなく、当社の土地だけでは工事ができないため、隣地の方に工事の間だけ土地の使用をお願いしたのですが、承諾していただけませんでした。この場合、工事はできないのでしょうか。

【回答】
工事等を行う場合には、自らの土地だけでなく、隣地を使用する必要が生じる場合があります。

このような場合に備えて、現行法の民法209条1項は、「土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる。」と定め、土地所有者の隣地使用権を認めています。そのため、ご相談のケースにおいても、隣地所有者に対し、民法209条1項に基づき、隣地の使用を請求していくことになります。

もっとも、隣地使用権は、実務上、隣人に対する請求権であり、隣人の承諾が得られない場合には、承諾に代わる判決(民事執行法177条1項本文)を得る必要があると解されています。
そのため、隣人が隣地の使用を承諾しない場合には、訴訟によって承諾に代わる判決を得て工事を行う必要があります。

また、隣地の使用が認められるためには、隣地を使用する必要性を認めてもらう必要があり、他に取りうる手段があるかといった点や、隣地が使用されているのか、隣地を使用した場合にはどのような損害が生じるおそれがあるのかといった点を踏まえて、隣地を使用する必要性が判断されます。

なお、老朽化が著しく、判決を待っていては倒壊の危険があるような場合においては、隣地の使用の承諾を求める仮処分を申し立てることも考えられます。

この隣地使用権については、令和3年4月28日の民法改正により、使用目的が明確化されるとともに、「隣地を使用することができる。」と規定されることになりました。これにより、従来、隣地所有者が承諾しなかった場合には、承諾に代わる判決を得なければなりませんでしたが、承諾を得なくても隣地を使用して工事ができるようになりました。

他方で、隣地所有者の不利益が大きくならないように、使用の日時、場所及び方法について、最も損害が少ない方法を選択しなければならないとされています(改正民法209条2項)。

とはいえ、隣地所有者が工事を妨害してきたような場合については、自力でこれを排除することは許されないため、工事前に隣地所有者の理解を得るための話合いの重要性は変わりません。
それでも妨害行為を行ってくる場合には、妨害行為の差止めを裁判所に求めることになります。
隣地所有者との協議を円滑に進めたり、妨害行為の差止めが必要になったりした場合には、弁護士に対応を相談されることをおすすめします。

なお、この民法改正は、令和5年4月1日から施行されます。

大原滉矢

アソシエイト弁護士 大阪弁護士会所属

略歴
平成23年 私立近畿大学附属高等学校 卒業
平成27年 京都大学法学部 卒業
平成29年 京都大学大学院法学研究科法曹養成理論専攻 修了
平成31年 弁護士登録・弁護士法人飛翔法律事務所入所

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