労務

年次有給休暇の計画的付与

【相談】
有給休暇については、取得が義務化されたと聞いていますが、従業員に有給休暇を取得するよう伝えているものの、会社に気を遣っているのか有給休暇を取得してくれません。このような場合、会社から従業員に有給休暇を取得させることはできるのでしょうか。

【回答】
年次有給休暇(以下「有給休暇」といいます。)に関しては、6か月間以上継続して勤務し、全労働日の8割以上について出勤した従業員に対して、以下のとおり10日以上の有給休暇を与えなければならないとされています(労基法39条1項・2項)。

継続勤務年数6か月1年
6か月
2年
6か月
3年
6か月
4年
6か月
5年
6か月
6年
6か月
付与日数10日11日12日14日16日18日20日

そして、2019年4月からは、年5日の有給休暇については、従業員に取得させなければならないことになっており(同条7項)、これに違反した場合には、30万円以下の罰金が科されます(同法120条1号)。

このような労基法違反の状態に陥らないために、会社としては、有給休暇の計画的付与制度を導入することが考えられます

この有給休暇の計画的付与は、有給休暇のうち5日を超える分について、労使協定を締結して計画的に休暇取得日を割り振ることができる制度のことをいいます。

有給休暇の計画的付与を行うためには、①就業規則で「労働者代表との間に協定を締結したときは、その労使協定に定める時季に計画的に取得させることとする」などのように定めておくこと(就業規則による規定)と、②労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する者との間で書面による協定を締結しておくこと(労使協定の締結)が必要となります

そして、労使協定においては、次の5つの事項を定めておく必要があります。

まず、ⓐ計画的付与の対象者に関しては、計画的付与の時季に育児休業や産前産後の休業に入ることが分かっている者や、定年などあらかじめ退職することが分かっている者については、労使協定で計画的付与の対象から外しておきます。

次に、ⓑ対象となる年次有給休暇の日数に関しては、年次有給休暇のうち、少なくとも5日は労働者の自由な取得を保障しなければなりませんので、5日を超える部分について労使協定に基づき計画的に付与することになります。

そして、ⓒ計画的付与の具体的な方法に関しては、①事業場全体の休業による一斉付与(事業場全体を休みにしても顧客に迷惑にならないような時期に、飛び石連休の平日を休みにして大型連休とする場合などに用いられます。)、②グループ別の交代制付与(事業場で一斉に休みを取ることが難しい業態において用いられることが多いです。)、③個別に休暇日を決める個人別付与という3つの方法があります。事業場全体の休業による一斉付与の場合には、具体的な有給休暇の付与日を定めれば足りますが、グループ別の交替制付与の場合には、グループ別に具体的な有給休暇の付与日を定めることになります。個人別付与の場合には、計画表を作成する時期とその手続等について定めておく必要があります。

ⓓ有給休暇の付与日数が少ない者の扱いに関しては、事業場全体の休業による一斉付与を行う場合等において、新規採用者などで5日を超える年次有給休暇がない者がいるときは、一斉休業日を有給の特別休暇とするか、一斉休業日について休業手当として平均賃金の60%以上を支払うかのいずれかの措置を講じる必要があります。

ⓔ計画的付与日の変更を行う場合には、労使協定で計画的付与日を変更する場合の手続を定めておくことになります。

以上のとおり、有給休暇の計画的付与を行うにあたっては、就業規則において規定すべき事項や、労使協定において締結しておくべき事項がありますので、労働法に詳しい弁護士にこれらの作成・変更を依頼して適法に制度設計しておくのが安全です。

江崎辰典

パートナー弁護士 大阪弁護士会所属

略歴
佐賀県出身
平成14年 三養基高等学校卒業
平成18年 立命館大学法学部卒業
平成20年 立命館大学大学院法務研究科法曹養成専攻修了
平成22年 弁護士登録・弁護士法人飛翔法律事務所入所
平成29年 同事務所のパートナーに就任(現職)

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