労務

退職勧奨時の留意点

【相談】
問題を起こした従業員について、解雇等も考えているのですが、従業員の解雇は簡単ではないと聞いていますし、事後的に揉めるケースも多いと聞いています。後にトラブルとならないよう、会社からの解雇ではなく、自主的に退職してもらえるよう協議を進めることはできないかと考えています。

このような場合、どのような点に留意すべきでしょうか。

【回答】

問題のある従業員について、強制的に雇用関係を終了させる手段である解雇を行うよりは、会社も従業員の意思に基づいて雇用関係を終了させることができる従業員からの自主退職を望むケースは少なくないと思います。従業員への不利益が軽減できるという意味もありますので、会社側が自主退職に向けた退職勧奨を試みることは、実務上見られるところです。ただ、この退職勧奨においては、従業員に退職届を提出させさえすればいいと、強迫的な言動や誤解を与えるような説明により、従業員に退職届を提出させた場合は、後になって退職の意思表示が無効とされてしまうおそれがあるので、そのような言動や説明は行わないよう注意が必要です。無効となってしまった場合は、一切労働が行われていないにもかかわらず、退職の意思表示があった時から復職した時までの賃金をその従業員に支払わなければならなくなるなどのおそれもありますので、その影響は小さなもので収まらない場合もあります。

以下では、実際にやってしまいがちなリスクのある退職勧奨の方法をいくつかご紹介しますので、参考にしていただければと思います。

①従業員が退職すると言うまで何度も長時間面談を強要する。

退職勧奨をする以上、何度か面談を行うことになることはあり得ることであり、これが全く許されないというわけではありません。ただし、長時間の面談を行ったり、従業員が拒絶の意思を示しているにもかかわらず繰り返し面談を行ったりするなど従業員が適切に検討できなくなるような態様での協議は避けましょう。

②(解雇が認められないようなケースで)解雇か自主退職かの2択を迫る。

解雇が認められる可能性が低いケースにもかかわらず従業員に対し解雇か自主退職かの2択を迫ると、従業員は間違った前提に基づいて、自主退職を決断したことになりますので、退職の合意が無効とされてしまうおそれがあります。解雇が確実にできるのかどうかは十分に検討してから退職勧奨は行うようにしましょう。

③一定期間の減給の懲戒処分を行い、自主退職を促す。

減給できる金額及び回数には、制限があります(1事案につき1回のみ。平均賃金の1日分の半額まで(労基法91条))ので、一定期間の減給ということがそもそもできません。労働基準法違反という別の問題も生じますので、ご注意ください。

④退職を促すため、配置転換を命じる。

配置転換は、業務上の必要性に基づくものですので、退職を促すために配置転換を行うことは許されません。逆の見方をすれば、退職勧奨を行いたい従業員に配置転換を行うと、業務上の必要性がある場合でも、退職を促すためのものと誤解されるおそれがあります。ただ、純粋に業務上の必要から配置転換を行わなければならない場合もあるかとは思いますので、そのような場合は、業務上の必要性を明確に説明できるように資料とともに準備しておくといいでしょう。

以上の通り、退職勧奨を行う際は、後に争いにならないよう、細心の注意を払う必要があります。また、その中で、当該事案で解雇を選択した場合の見通しなど専門家に意見を聞くべき場面もあるかと思いますので、退職勧奨の進め方についてお悩みの場合は、そのような問題に詳しい弁護士等の専門家にご相談されることをお勧めいたします。

三島大樹

パートナー弁護士 大阪弁護士会所属

略歴
兵庫県出身
平成18年 私立高槻高等学校卒業
平成23年 京都大学法学部卒業
平成25年 京都大学法学研究科法曹養成専攻卒業
平成26年 弁護士登録・弁護士法人飛翔法律事務所入所
令和 3年 同事務所のパートナーに就任(現職)

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