労務

犯罪による懲戒解雇について

【相談】

 ある従業員が、電車内で痴漢をしたとして、いわゆる迷惑防止条例違反で逮捕されたことが発覚しました。本人は罪を認めているようで、現在は休職を命じています。最終的には懲戒解雇もやむなしと考えていますが、何か問題はあるでしょうか。

【回答】

 懲戒解雇処分は、労働者にとって最も重い処分となりますので、慎重な検討が必要となります。実務上も、懲戒解雇処分が有効であると認められるには、厳格な要件を満たすことが必要となります。

まずは、就業規則上に懲戒事由を具体的に定めておく必要があります。今回のケースのように、従業員の私生活上の行為を問題とする場合には、「犯罪行為を行ったとき」などの懲戒事由が考えられるところです。

次に、懲戒解雇が有効となるためには、企業の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される必要があります。これは、労働時間外のプライベートな時間は本来自由であることが前提とされているためです。裁判例においても、そのことを前提に、労働者の私生活上の行為により、使用者の信用を毀損したり、他の労働者に悪影響を及ぼすなど秩序を乱したりするおそれがあることにも配慮して、使用者の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される必要があると判断しているものがあります。

 今回のケースでは、電車内での痴漢行為も犯罪行為であることに変わりはなく、密集して発見され難いという状況を利用して意図的に行われるという行為の性質や被害の重大さ等からすれば、従業員本人の前科前歴関係等も踏まえた刑事処分の内容や従業員の地位によっては、会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると評価し得る場合もあると思われます。同じように電車内での痴漢行為による懲戒解雇が問題となったものとして、東京高等裁判所平成15年12月11日判決があります。勤務態度は非常にまじめな電鉄会社の職員が、私生活で度重なる電車内での痴漢行為により罰金の刑事処罰を受けたために懲戒解雇された事案で、懲戒解雇処分は有効と判断されました(電鉄会社の職員という地位や行為の反復継続、前科関係などが考慮されたものと思われます。)。

 冒頭で述べましたとおり、懲戒解雇処分は労働者にとって最も重い処分となりますので、仮に上記の厳格な要件を充足するか否か判断が微妙なケース(電鉄会社の職員でなかったり、初犯であったりするなど)では、場合によってより軽い処分(降格・減給など)を検討したり、退職がやむを得ない場合には自主退職を促したりすることによる対応も検討されるとよいでしょう。

 なお、今回のケースでは、従業員が罪を認めているということですが、罪を認めていた場合であっても冤罪の可能性は皆無ではないため、刑事処分が確定するまでは性急な処分を行わないように注意が必要です。

 懲戒解雇処分は求められるハードルが高く、その処分の有効性について裁判等で争われるケースも少なくありません。トラブルを未然に防止するという観点からも、経験豊富な弁護士に相談されるのがよいでしょう。

江崎辰典

パートナー弁護士 大阪弁護士会所属

略歴
佐賀県出身
平成14年 三養基高等学校卒業
平成18年 立命館大学法学部卒業
平成20年 立命館大学大学院法務研究科法曹養成専攻修了
平成22年 弁護士登録・弁護士法人飛翔法律事務所入所
平成29年 同事務所のパートナーに就任(現職)

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