労務

同一労働同一賃金について

【相談】

2021年4月から、中小企業においても同一労働同一賃金の適用が始まったと聞いています。企業側で対応が必要と聞いてはいるのですが、具体的にどういった対応が必要なのかがよくわかっていません。

企業側ではどのような対応が必要なのでしょうか。

【回答】

まず、同一労働同一賃金がどういったものなのかということについてご説明します。読んで字のごとく、同一の労働には同一の賃金を与えなければならない、ということであり、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(いわゆるパートタイム・有期雇用労働法)8条及び9条や、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(いわゆる労働者派遣法)第30条の3及び第30条の4に規定されているものです。より詳しくいいますと、同じ業務内容で、同じ責任を負っており、職務や配置の変更も同じであるなど条件面も同様である場合に、当該従業員が無期雇用か有期雇用(あるいは短時間労働者や派遣労働者)かどうかで待遇を変えるのは違法というのが、同一労働同一賃金の考え方です。これを「均等待遇」といいます。さらに、職務内容に違いがある場合でも、その違いに応じた均衡のとれた待遇にしなければならないとされています。つまり、無期雇用労働者が100の業務を行うことになっていて、有期雇用労働者が90の業務を行うことになっている場合は、他の要素が同じであれば、有期雇用労働者の待遇を無期雇用労働者の9割以上に設定しなければならないということです。これを「均衡待遇」といいます。このように、同一労働同一賃金は、労働が同一の場合だけでなく、異なっている場合も、不均衡な待遇は許されていないということは押さえておく必要があります。

企業側としては、このような同一労働同一賃金の考え方を踏まえた上で、短時間労働者や有期雇用労働者等の基本給、賞与、退職金や各種手当等の待遇について、上記の均等待遇や均衡待遇に違反している待遇はないかという点を一つ一つ検討していくことになります。検討の際は、

 1 無期雇用労働者のみに設けられている待遇の有無の確認

 2 その待遇の趣旨は何か

 3 その趣旨は、有期雇用労働者等にも当てはまらないか

 4 趣旨自体は有期雇用労働者には当てはまらないとしても、その優遇が不均衡となってはいないか

という観点から、そのような待遇を無期雇用労働者のみに設けることに正当な理由があるかどうかについて検討していただければ整理がしやすいと思いますので、参考にしてください。

また、具体的なイメージとしては、実際に同一労働同一賃金が問題となった判例を参考にするとイメージが湧きやすいと思います。同一労働同一賃金違反とされた判例としては、次のようなものがあります。すなわち、①有給での病気休暇を無期雇用労働者のみに認めていた点について、生活保障を図り、私傷病の療養に専念させることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的は有期雇用労働者にも当てはまるとして同一労働同一賃金違反とした事例(最高裁令和2年10月15日判決)や、②年末年始勤務手当を無期雇用労働者のみに認めていた点について、一般的には休日である年始期間における勤務の代償として祝日給を支給する趣旨は有期雇用労働者にも当てはまるとして同一労働同一賃金違反とした事例(最高裁令和2年10月15日判決、最高裁令和2年10月15日判決)や、③扶養手当を無期雇用労働者のみに認めていた点について、その生活保障や福利厚生を図り、扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的は、有期雇用労働者にも当てはまるとして同一労働同一賃金違反とした事例(最高裁令和2年10月15日判決)などです。

他方で、同一労働同一賃金違反ではないとされた判例としては、アルバイトに対してのみ賞与の支給がなかった事案について、実際の賃金体系まで詳細に検討し、人事施策として、賞与が人材の確保を目的としていたことが認められることや、アルバイト職員の職務が簡易で、人事異動もなかったこと、そして、人事施策の流れとして簡易な業務についてはアルバイトにさせる方向で置き換えが進んできていたこと、さらには、アルバイトには試験による正社員登用制度も用意されていることを踏まえ、同一労働同一賃金違反ではないとした事例(最高裁令和2年10月13日判決)などがあります。

労働者への待遇やその目的については、各社ごとに様々な考えがあると思いますので、それを定型的に処理することは難しいと思います。同一労働同一賃金についてお悩みの企業においては、一度同一労働同一賃金に詳しい弁護士等の専門家にご相談されることをおすすめします。

三島大樹

パートナー弁護士 大阪弁護士会所属

略歴
兵庫県出身
平成18年 私立高槻高等学校卒業
平成23年 京都大学法学部卒業
平成25年 京都大学法学研究科法曹養成専攻卒業
平成26年 弁護士登録・弁護士法人飛翔法律事務所入所
令和 3年 同事務所のパートナーに就任(現職)

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