1 相続放棄とは
相続放棄とは、相続が発生したときに、亡くなった方(被相続人)の残した全ての財産を承継することなく放棄する手続です。全ての財産を放棄することになりますので、財産の一部だけを受け取るということはできません。また、財産には借金等の消極財産も含まれますが、被相続人が借金等の債務を抱えていた場合に相続放棄をすれば、その債務について返済義務を負うことがなくなります。そのため、借金があることが分かっていたり、借金があるかどうか分からない場合に相続放棄の手続がとられることがあります。他には、被相続人と疎遠であって財産を受け取る意思がないような場合に相続放棄がなされることがあります。
2 相続放棄の注意点
相続放棄の注意点ですが、被相続人の生前から予め相続放棄をしておくことはできません。被相続人本人やその法定相続人になることが予定されている方に対して、「相続しない」という意思を表明したり、そのような書面を差し入れていたとしても、相続放棄の効果は生じないことには注意が必要です。
例えば、予め多額の借金があることを知っていたため、生前に「相続放棄します」という書面を差し入れていたとしても、被相続人の死後に「相続放棄」の手続を取らなければ相続放棄の効果は生じないのです。
3 相続放棄の手続
では、相続放棄はどのように行うのでしょうか。相続の放棄にあたっては、家庭裁判所に対して、相続放棄の申述が必要です(民法938条)。自らが法定相続人であることを示す書類等必要な書類とともに、家庭裁判所で相続放棄の手続を行います。
ただし、注意が必要なのは、相続放棄の期間制限です。この相続放棄の期間制限は、被相続人が亡くなったことを知った日から3ヶ月以内となっています。「知った日」となっておりますので、同順位の法定相続人が複数いる場合であっても(親が被相続人である場合の兄弟など)、知った日が違えば相続放棄ができる期間は違うことになりますので注意が必要です。「知った日」というのは「知った日がいつか」ということを検討する必要が出てきますので、こうした問題を生じさせないためにも、可能であれば亡くなった日から3ヶ月以内に行う方が良いでしょう。
4 相続放棄の熟慮期間を経過した場合
被相続人が亡くなったことを知ってから3ヶ月を経過している場合に、相続放棄ができるのかという問題があります(なお、熟慮期間が経過するまでに相続を承認するか放棄をするかの判断ができないような事情がある場合には、期間が満了する前に熟慮期間を延長する手続もありますが、ここでは一旦熟慮期間が満了した場合を取り扱います。)。判例の中では、被相続人との交流の状況等を勘案して、熟慮期間の開始を遅らせる判断をしたものもあります。こうしたケースにおいて相続放棄申述を行う場合には、裁判例等の知識も必要になりますので、自ら行うことが難しい場合には専門家にご相談されることをご検討ください。