ベンチャー企業における事業上の法的リスクとその対応

ベンチャー企業の特殊性として、先例や確立した見解等がない中で、限られた人的・物的資源を活用して、変化が激しい社会に対応しなければならないという点があげられます。

そのため、法務などのリスク管理については手が回らず、優先順位を落とさざるを得ないという状況もあり得ます。

しかしながら、法的リスクに対して最低限の対応すら行っていない場合、それは大変危険です。例えば、先例のないスキームが思いがけず業法違反と判断される場合、行政罰としての制裁金や行政処分としての営業停止だけでなく、刑事罰としての罰金や懲役のリスクがあります。多額の金銭的な負担を強いられることもさることながら、営業停止による売上の減少、そのような処分を受けたことによるイメージダウンについては、今後の事業継続に大きな影響を与えてしまうでしょう。

起業間もない時期だけでなく、金融機関やベンチャーキャピタルからのファイナンスが実現しようとしている時期、あるいはIPOやM&A等、企業としての重要なステップの直前の時期に発生した場合には、これらが白紙撤回になりかねない事態に陥ることにもなります。

そのため、人的・物的資源が限られる中においても、営業や商品開発等と同時に、法的リスクについても管理しておく必要があるのです。ベンチャー企業においても、他の企業との関係だけではなく、監督官庁等の行政との関係、消費者との取引を行う場合には消費者ないし消費者団体との関係において、規制法令等の確認が必要となり、想定されるリスクには適切に対応しておかなければなりません。

実務上の対応としては、第一に、弁護士等の法律の専門家に相談する方法があげられます。ベンチャー企業の支援を多く手掛ける専門家であれば、先例のない事業であっても、個別具体的な事情を踏まえ、類似の既存事業における事例も参考にしながら、リスクの有無やその解消方法についてアドバイスを行うことが可能です。その他にも、専門家の方から監督官庁に対して、企業名を伏せた上で当該事業スキームが法令に違反するか否かについて問合せを行うことができる場合もあります。

また、ノーアクションレター制度(法令適用事前確認手続)とグレーゾーン解消制度という規制所管省庁や事業所管省庁に対して問合せを行い、回答を得るという公的な制度も設けられています。

費用や時間をかけるなど相応の負担をして立ち上げた事業を無駄にしてしまわないためにも、事業上の法的リスクにも留意した上で日々の企業運営を行っていただければと思います。

江崎辰典

パートナー弁護士 大阪弁護士会所属

略歴
佐賀県出身
平成14年 三養基高等学校卒業
平成18年 立命館大学法学部卒業
平成20年 立命館大学大学院法務研究科法曹養成専攻修了
平成22年 弁護士登録・弁護士法人飛翔法律事務所入所
平成29年 同事務所のパートナーに就任(現職)

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