IPOを目指すベンチャー企業が留意すべき人事労務上の問題

 ベンチャー企業のイグジット戦略の一つに、IPO(株式公開)があります。IPOを行うに当たっては、上場審査をクリアする必要があり、社内体制の整備の観点から法的に対応しておかなければならない事項が多数存在します。今回は、その事項の中で、人事労務上の問題をいくつか見ておきたいと思います。

1 就業規則等の規程の整備、運用

 人事労務管理は就業規則等の社内規程の整備から始まります。労働基準法等の各種法令に従って適切に整備する必要があり、法改正にも対応しておかなければなりません。また、36協定等必要な労使協定の締結も必要です。

 その上で、社内における実際の運用が就業規則等の社内規程に沿ったものとなっているか十分に確認する必要があります。

2 未払い残業代

 従業員が残業を行えば残業代を加算して給与を支払う必要があります。しかし、これを怠り残業代の未払いが発生している場合には、これを解消する必要があります。この問題を放置したまま従業員を増やし続けると、過去の未払い残業代の負担は相当大きなものとなり、上場が頓挫することにもなりかねません。

 従業員の労働時間管理を適切に行い、雇用契約書や就業規則等も工夫して、未払い残業代の問題が発生しない体制を構築する必要があります。労働時間管理については、タイムカードやパソコン等の客観的記録を基礎として確認することが重要です。また、定額残業代制を導入している場合には、どの部分が所定内労働分の賃金で、どの部分が残業代相当分の支払いかが分かるように明確に区別されていること、定額残業代分の時間数の設定が適切になされていること、定額残業代分を超過する残業がなされたときにその分の残業代を支払っていることの確認が必要です。

3 人事労務トラブル

 従業員との間で上記の残業代やハラスメント等の人事労務に関連するトラブルが発生し、訴訟や調停に移行してしまった場合、これに対応する必要が生じ、上場準備をしている会社にとって負担が増すことになりますし、上場審査にも悪影響を与えかねません。

 このようなトラブルについては、そもそも発生させないことが重要ですので、早い段階から紛争を予防するためにコンプライアンス体制を顧問弁護士と共同して築くべきでしょう。この点でも日々の人事労務管理には重要な意義があります。

江崎辰典

パートナー弁護士 大阪弁護士会所属

略歴
佐賀県出身
平成14年 三養基高等学校卒業
平成18年 立命館大学法学部卒業
平成20年 立命館大学大学院法務研究科法曹養成専攻修了
平成22年 弁護士登録・弁護士法人飛翔法律事務所入所
平成29年 同事務所のパートナーに就任(現職)

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